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    2024.4.30

    被災地借地借家法について

    まず、令和6年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」により、被害を受けられた方々に対しまして、謹んでお見舞い申し上げます。
    被災地の一刻も早い復旧・復興を心からお祈り申し上げます。

    昨今、国内に於いて地震や津波、台風など様々な大規模災害が起きています。
    「大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法」(被災借地借家法)は、こうした大規模な災害により借地上の建物が滅失した場合における借地人の保護等を図る為、定められています。
    どのような場合に適用されるか、また借地借家法との違いなどについて、今回は詳しく解説しようと思います。

    1.被災借地借家法が適用される場合

    実は災害全てに適用される訳ではありません。
    被災借地借家法は、政令で、
    ①災害、②当該災害に対し適用すべき措置、③これを適用する地区の指定がなされることにより、適用されます(本法第2条)。
    災害の被害の実情等に適切に対応する事ができるよう、部分的な適用を指定する事ができるようになっています。
    その為、災害が起きた際に、本法の適用があるか否か、本法のどの措置の適用があるかについては、政令の指定を確認する必要があります。

    2.借地権者からの解約

    借地借家法では、借地契約の更新後に借地上の建物が滅失した場合に、借地権者が借地契約の解約の申し入れをすることができると規定されています。(借地借家法第8条1項)
    更新前の滅失の場合については、そのような規定はありません。

    また、定期借地契約で建物が滅失した場合にも、同契約は更新が予定されている契約ではない為、第8条1項により解約の申し入れはできません。
    合意解約等をしない限り、借地契約は継続し、借地権者は賃料の支払いを継続する必要があります。
    しかし、被災した借地権者に建物を再建築する意向がないにも拘らず、賃料の支払いを継続されることは、大変なことであり、その場合には、借地契約の解約を認め、当該土地を有効利用することが望ましいです。

    そこで、被災借地借家法では、災害により、借地契約の更新前に建物が滅失した場合等であっても、借地権者から、借地契約の解約申し入れをすることができるとする規定が定められました。(被災借地借家法第3条)
    この場合には、解約の申し入れがあった日から3ヶ月の経過により、借地権が消滅することになります。

    尚、更新前に建物が滅失した場合の規定なるので、更新後は、借地借家法第8条1項により、解約を行うことになります。
    この被災借地借家法第3条に基づく解約ができるのは、政令の施行の日から起算して1年間とされています。

    3.借地権の対抗要件

    借地権が設定されている土地が、当該土地の所有者から第三者に売却され、所有権移転登記がなされた場合、借地権者が第三者に借地権を主張する為には、地上権の登記、土地賃借権の登記、土地上に借地権者が登記されている建物を有することが必要となります。(借地借家法第10条1項等)

    尚、登記されている建物が滅失してしまった場合は、その建物を特定する為に必要な事項、建物の滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の見易い位置に掲示すれば、建物の滅失から2年間は借地権を第三者へ対抗することができます。(借地借家法第10条2項)

    しかし、被災後すぐに、この掲示を行うことは困難です。掲示自体が復興の妨げとなる可能性もあります。
    そこで、被災借地借家法では、政令の施行の日から起算して6ヶ月間は上記の掲示をしなくても借地権を第三者に対抗することができるとしています。(被災借地借家法第4条1項)
    掲示による対抗を認める期間を3年間としています。
    被災時は建物の再建築に通常よりも時間を要することが考えられますので、借地借家法よりも長い期間を定めているのです。

    被災借地借家法でも借地借家法第10条1項の場合を要件としている為、滅失をする前には、建物の登記をしている必要があります。

    4.賃借権の譲渡または転貸

    土地の賃借権の譲渡または転貸をする場合には、賃貸人の承諾が必要です。(民法第612条)
    この点、借地借家法には、借地権者が第三者に借地権上の建物を譲渡しようとする場合に、裁判所が借地権設定者の承諾に代わる許可を出すことができるという、いわゆる借地非訟制度を設けています。(借地借家法第19条)
    ただ、借地上の建物が滅失した場合については、そのような制度は設けられていません。

    しかし、被災後に借地権者に建物を再築する資力や意向がないことも考えられ、そのような場合は、土地の賃借権を譲渡または転貸して、投下資本の回収を図ることが合理的であるといえます。

    そこで、被災借地借家法では、第三者が賃借権を取得し、または転貸しても借地権設定者に不利となる恐れがないにも拘らず、借地権設定者が賃借権の譲渡または転貸を承諾しないときには、借地権者の申し立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を裁判所が与えることができるという規定が設けられています。(被災借地借家法第5条)

    この特例を認める期間は、政令の施行日から起算して1年間とされています。
    尚、同許可の裁判をするにあたり、当事者の利益の公平を図る為、裁判所は譲渡や転貸を条件とする財産上の給付等を付随的に命じることができるとされています。(被災借地借家法第5条1項)
    その他、借地借家法の借地非訟手続の規定が準用されています。

    5.仮設住宅等の賃貸

    被災地においては、仮設住宅、仮設店舗等についての需要がありますが、借地借家法の強行規定の適用を受けることとなると、土地の所有者が賃貸することに抵抗を感じ、その需要に応えられない危険性があります。

    そこで、被災地では、存続期間を5年以内、契約の更新なし、建物の築造による存続期間の延長なしという内容を定めることができる、被災地短期借地権が定められています。

    また、被災地短期借地権では、借地契約の期間が満了した場合の建物買取請求権の規定の適用はないとされています。(被災地借地借家法第7条2項)
    終了時には、別段の合意がない限り、賃借人が建物を撤去し、土地を明け渡す必要があります。
    被災地短期借地権は、公正証書等の書面でしなければならず、また政令施行日から起算して2年を経過するまでの間に設定することができると定められています。

    6.従前の賃借人に対する通知制度

    建物賃貸借において、同建物が滅失した場合には、賃貸借契約は終了すると解されています。
    当該土地の所有者が同土地上に建物を再建築しても、従前の賃借人には同建物の賃貸を要請する権利もありません。
    この点、被災地借地借家法では、所有者が滅失直前の用途と同一の用途の建物を再建築して賃貸しようとする場合には、従前の賃借人のうち、所在がわかっている者に対し、その旨を通知しなければならないとされています。(被災地借地借家法第8条)

    この制度により、従前の賃借人は、賃借に関する交渉の機会を得ることができますし、居住場所に戻る機会を得ることができます。
    この通知が必要な期間は、政令施行日から起算して3年間とされています。
    本通知を怠った場合には、損害賠償責任が問題となりますが、賃貸人には従前の賃借人に対して賃貸借契約を締結する義務を課すものではありませんので、損害との間に相当因果関係があるかについて検討する必要があります。

    今回は被災地借地借家法について、お伝え致しました。みなさんの一助になれますように。

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